カストルム・メリディアヌムから青燐精製所へと戻った私は、次の本丸への突入の前に、束の間の休息をとっていた。
「うーん…霧が濃くて良く見えない…」
休息がてら、カストルム・メリディアヌムの様子を眺めようかと思い、青燐精製所で、もっとも見晴らしのいい場所に陣取ってみたのだけれど、高地特有の濃い霧のせいで、僅かに監視用のライトが交差しているのが見える程度だった。
青燐精製所の北側、ラウバーン緩衝地と呼ばれる帝国軍と不滅隊の最前線には、多くの魔導兵器や攻城兵器の残骸が散らばり、真新しい闘いの燻りが漂ってくる様だった。
ここからは見えないけれど、さらに北の方、カストルム・メリディアヌムの正門前では、今も同盟軍本隊と、帝国軍第XIV軍団本隊との闘いは続いている。
マーチ・オブ・アルコンズの第3段階を成功させたことで、帝国軍にも混乱が起きている様で、今は戦闘は小康状態になっているみたいだけれど、次の最終段階開始にあたって、同盟軍本隊は攻勢に出れば、再び、戦闘は激化するだろう。
「……甘いものが食べたい……」
この戦闘の先に何があるのかとか、なんで戦争に関わる事になったんだろうとか、こうしてぼーっとしていると、ついつい、ネガティブな考えが頭に浮かんできてしまう。
でも、今は、考えちゃいけない。
余計なことを考えてしまうのならば、別の事を考えれば良い……と言うわけで、私は、リムサ・ロミンサのビスマルクの特製スイーツの事を夢想することにしたのだった。
「これが、ダラガブの爪…」
青燐水の汲上パイプラインを後にした私は、近くに居た不滅隊の人に、近くに面白いものがあると聞いて、そこにやってきていた。
なんでも、第七霊災時に、ここに火の玉が落ちて、それがはじける様に、偏属性化したエーテルが固まって出来たものらしい。
「改めてこうしてみると、普段は形となって存在していないエーテルが、こうやって結晶化しているのって不思議な感じよね」
夕日色に輝く偏属性クリスタルを眺めながら、私はそんなことを呟いていたのだった。
それから、私は再び青燐精製所に戻り、不滅隊の兵舎の一角をお借りして、休憩をとる事にした。
軽いものだったけれど、温かいスープとパンをおなかに入れた事で、長い戦闘で緊張していた糸が解れていく様な感じがした。
「……眠い……」
温かい室温と、柔らかいランプの明かりに、徐々に瞼が重くなっていく。
流石に、熟睡するわけにはいかないのだけど、やはり睡魔は強力な存在だと、戦いに競り負けながら、私はうつらうつらと船を漕ぎ始めていた。
「……眠ったら……だ…め……」
たぶん、そう長くない時間のうちに、不滅隊の人が起こしに来るだろう。
それまで、せめて、良い夢を見られると良いなと思いながら、睡魔に負けた私は、意識を手放したのだった。